コンペ条件にないZEBを提案 近畿産業信用組合新本店(後編)
- 19/12/26
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近畿産業信用組合新本店(大阪市中央区)は創エネを含んだ1次エネルギー削減率が61%となる高層ビルのZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)だ。まだ希少な存在といえる高層ビルのZEB化の取り組みについて、前編に続き、近畿産業信用組合の松岡富雄氏と新井成哲氏、設計・施工を担った大成建設の平井浩之氏と根本昌徳氏、湯浅孝氏にプロジェクトを解説してもらう。
——近畿産業信用組合新本店は地上18階建て、高さ78mの高層ZEBです。どのような経緯で計画を進めたのでしょうか。
松岡 富雄氏(近畿産業信用組合総務部部長) 大阪市天王寺区にあった旧本店の建物が老朽化し手狭になっていたので、北浜(大阪市中央区)の現在地に新本店ビルを新築して分散していた本部機能を集約しました。
計画に当たっては、2015年10月に建設会社を対象とする設計・施工一括発注方式のコンペを実施しました。その結果、「温故創新」というテーマを掲げた大成建設の提案が私たちの心をわしづかみにしたのです。100年先の未来を見据えて、地球環境に優しい先導的なビルを一緒につくろうという提案でした。
近畿産業信用組合新本店の南東面外観。石張りの外壁の外側をガラスの膜が覆っている(写真:近畿産業信用組合)
新井 成哲氏(近畿産業信用組合経営企画部次長) 本店の移転は50年に一度あるかどうかのビッグプロジェクトです。北浜のランドマークとなり、公共性の高い企業としての存在意義を見いだせるものにしたいという思いがありました。
プロジェクトマネジメント会社と時間をかけて議論しながらコンペの要綱を作成し、設計のテーマに「創エネ」と「ランニングコストを低減できる環境建築」を入れました。屋上緑化や発光ダイオード(LED)照明、太陽光発電を導入するといった当時の一般的なエコ対策だけでなく、「着工時に導入可能性のある技術を提案してください」というフレーズも盛り込んだのです。
こうした要望に対して唯一、ZEBの実現をうたう提案を示したのが大成建設でした。当時は私たちもZEBについてよく知らなかったのですが、経営陣は、これは新本店ビルとして強力なアピールポイントになると高く評価しました。
平井 浩之氏(大成建設関西支店設計部長) 近畿産業信用組合は、信用組合の中でも預金規模が大きく先端的な取り組みをしています。そうした特性を反映し、新本店をほかにない建物にしようと考えました。象徴性を備えた建物とするために、総合設計制度を利用して78mの高さを確保しました。足元の公開空地は緑の広場とし、近隣との絆を育むように促しています。
建物を高くすることは、ZEB化の面では不利になります。しかし、だからといって建物の制約が増えて快適性や使い勝手が減じてしまっては本末転倒です。ZEBを実現するための建築を目指すのではなく、まず人が滞在する建築としての在り方を考えて、それが結果としてZEBに結び付くという設計の進め方が理想だと思います。
ZEBの設計では窓を小さくして熱負荷を減らすのが一般的な考え方ですが、ここでは発想を逆転させ、柱と梁(はり)以外は窓とする開放的なビルを考えました。北浜には石張りの重厚な建築が多いので、こうした伝統的要素を踏襲しつつ、その躯体の外側をガラスで覆うことで革新的なイメージを与えました。ガラスと躯体(くたい)の間の空気が動いていく、いわば呼吸するダブルスキンは熱負荷の低減にも寄与しています。
ダブルスキンの外観見上げ(写真:近畿産業信用組合)
根本 昌徳氏(大成建設エネルギー本部ZEB・スマートコミュニティ部スマートコミュニティ推進室長) 国が現在のZEBの定義を示したのはコンペ後の15年12月です。当社では14年、技術センター内にZEB実証棟を建設するなどZEBへの取り組みを既に始めていました。近畿産業信用組合新本店は創生期の計画といえます。私たちは省エネ化のアイテムこそ用意していましたが、はたしてどこまでやれば本当に1次エネルギー消費量を50%以上削減できるのか、手探りで設計を進めました。
そもそもコンペに提案するときも「ZEBを前面に押し出して大丈夫だろうか」という不安がありました。一般的にはコストが優先されるので、いくら性能が良くても初期投資が高くなる提案は却下されるかもしれません。でもいざフタを開けてみると、ZEBという点がストレートに評価されました。
平井 私たちの提案は床面積も与条件をオーバーしていました。将来の対応を視野に入れると、ある程度の床面積の余裕を残しておくべきではないかという提案ですが、その分工事費は高くなります。一方、ZEB化によってランニングコストを低く抑えられるので、コストアップ分は30年で回収できるという資料も作成してプレゼンテーションしました。
「第三者の認定を取得したい」
——設備面でもさまざまな工夫を盛り込んでいますね。
湯浅 孝氏(大成建設関西支店設計部設計室長設備担当) 湿度の処理と温度の処理を分けた潜顕分離空調方式を採用し、冬にはダブルスキンを通して暖められた外気を室内に取り入れることで省エネ化を図りました。CO2センサーによって室内の在席人数を計測したうえでVAV の可変ダンパーで必要最低限の空気を送り込み、余計な外気処理をさせないようにしているのも特徴です。ただ、これらは基本的に汎用技術を組み合わせたもので、それらの積み重ねでZEB Readyを実現しています。
新井 太陽光発電は、屋上のホバリングスペースの手すりの垂直面に約10kWを据え付けています。創エネを除く1次エネルギー消費量削減率60%に対して、創エネを含めた削減効果は1%だけ増えて61%となりました。
——外皮の断熱は一般的な仕様とのことですが、断熱材を厚くするといった検討はされたのでしょうか。
湯浅 例えば外壁は、成形セメント板に厚さ15mmの吹き付け硬質ウレタンフォームを施しています。今回はこの厚さが20mmになっても消費エネルギーの軽減には大きな影響がなかったので15mmとしました。空調やダブルスキンの効果のほうが大きいので、費用対効果が大きなところに配分した格好です。
新井 せっかくZEBに取り組むので、その証しとなる第三者の認定を取得したい。大成建設に相談したところ、国土交通省の「サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)」があるので挑戦しないかと提案してもらいました。結果的に16年度秋の事業に採択されましたが、これは関西の金融機関では初めてです。環境共創イニシアチブが実施しているZEBリーディング・オーナー制度にも登録しました。
建物が完成して終わりではなく、大成建設には使用開始後も毎月の消費電力を計測してもらい、改善の提案を受けながら運営を進めています。経営陣の関心も高く、数カ月ごとに定期的に報告しています。
湯浅 用途とフロアの別に、遠隔でエネルギー使用量を計測し、毎月リポートの提出とチューニングを実施しています。例えば、屋上に貯湯槽を設けていますが、湯を無駄にためていないか、実際の使用量を計測しながら、使用量が少ない場合には貯湯の最大値を調整するといった改善提案をしています。こうしたデータの蓄積を基に、これからは断熱性能や取り込む外気量に応じた正確なエネルギー消費予測へとつなげていきたいと考えています。
松岡 中央監視システムなど、装備した設備を本当に使いこなしているかはなかなか分かりません。定期的にフィードバックしてもらえるのはありがたいですね。
大阪は近年大きな台風に相次いで見舞われています。今年も大きな台風がありましたが、そのときもダブルスキンの外側は滝のような雨が打ち付けていたのに室内は静かでした。良い執務環境の建物を建てていただいたと感謝しています。私たちの新本店が、先進的な省エネビルの1つの指針となれば幸いです。
前列左から近畿産業信用組合の新井成哲経営企画部次長と松岡富雄総務部部長、大成建設関西支店の平井浩之関西支店設計部長、本家公巳子設計部設計室(建築担当)プロジェクト・アーキテクト。後列左から大成建設関西支店の永吉敬行設計部設計室(設備担当)プロジェクト・エンジニア、湯浅孝設計部設計室長(設備担当)、大成建設エネルギー本部ZEB・スマートコミュニティ部の砂賀浩之ZEB推進室長、根本昌徳スマートコミュニティ推進室長(写真:守山 久子)
(日経 xTECH「省エネNext」公開のウェブ記事を転載)
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