築60年近い工場屋根で太陽光発電 白鶴酒造本店三号工場(前編)

 白鶴酒造は、築60年近い自社工場の屋上に381枚の太陽光発電パネルを設置した。北から吹き付ける「六甲おろし」の影響を考慮してパネルを並べ、躯体の既存防水を痛めない置き石基礎方式で取り付けた。

 

 1743年に創業した白鶴酒造(神戸市)の本店は、日本でも有数の酒どころ「灘五郷」のうち住吉川と石屋川に挟まれた御影郷にある。同社は2021年9月、本店敷地内に立つ三号工場の屋上で太陽光発電システムを稼働させた。1964年に建てられた三号工場は、3階建て部分と4階建て部分を組み合わせた鉄筋コンクリート造の建物だ。1年を通して醸造を行う四季醸造工場として機能している。

 

白鶴酒造本店三号工場の4階屋上に設置した太陽光発電パネル(写真:白鶴酒造)

 

 「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」では、年度間に使用するエネルギー量が原油換算で1500キロリットル以上の工場などの事業者に対し、中長期で年平均1%以上の省エネ化を求める(エネルギー消費原単位または電気需要平準化評価原単位)。白鶴酒造の太陽光発電システムの導入も、この削減目標を踏まえたものだ。

 

 敷地には本店三号工場のほか、大吟醸を仕込む季節蔵や木造の蔵を改装した白鶴酒造資料館が立ち並ぶ。「建物の寿命や屋根の構造耐力などを勘案すると、太陽光発電パネルを設置できる既存施設は限られる。現状で条件を満たすのが三号工場だった」。白鶴酒造生産本部環境統括室長の松田昌史氏はこう話す。3階建て部分と4階建て部分の屋上に合計381枚並べた供給最大出力152.4kWの太陽光発電パネルで、年間約13万2900kWhの発電量を見込む。

 

緩勾配の置き石基礎方式を採用

 

 屋上にずらりと並んだ太陽光発電パネルを見て気付くのは、屋上面をはうように低く、また水平に近い緩勾配で設置していることだ。これは、設置する屋上部分の条件に対応した選択だった。

 

 太陽光発電パネルは、ほぼ南向きの建物の平面形状に沿って配置している。既存の建物では屋上の大部分が設備の室外機で占められているケースも珍しくないが、「三号工場の場合、クーリングタワーや室外機置き場の面積は屋上全体のごく一部で、太陽光発電パネルを設置するのに問題はなかった」(松田氏)。一方で、いくつか配慮すべき条件もあった。

 

 1つは、北方に連なる六甲山からの北風、いわゆる六甲おろしの影響だ。もう少し勾配を大きくした方が発電効率は向上するが、六甲おろしであおられる可能性も高くなる。ここでは2度という緩やかな勾配に設定し、設置高さも屋根面に近くして風の影響を抑えた。

 

白鶴酒造本店三号工場全景。3階と4階の屋上に太陽光発電パネルを並べている。北側に六甲山が連なる(写真:トリナ・ソーラー・ジャパン)

 

 ただし設置面を低くすると、屋上外周部のパラペットが生み出す影の影響を受けやすくなる。建物の東南の角には看板を掲げた塔屋が立ち上がり、影をつくる。そこで、計算上、冬至でもこれらの影がほとんどかからない範囲内に太陽光発電パネルを配置した。屋上にパネルを置いていない余白の部分があるのはそのためだ。

 

 太陽光パネルの設置には、置き石基礎を用いたシステム工法を採用した。細長い直方体の置き石基礎を屋根面に直接置き、基礎の重みでパネルが動かないようにする。パネルと基礎は金具で固定する。施工が簡易で、屋根の防水面を傷める恐れもない。

 

 置き石基礎は、強風などによって少しずれる可能性はある。周囲のパラペットが高く屋上面に風が入り込みにくいことや、設置する高さが3〜4階のため高層ビルのような強風にさらされないことも置き石基礎に有利な条件だった。

 

 施工はダイセン(大阪市)が手掛けた。太陽光発電パネルには、モジュール1枚の発電量が大きい製品を選んでいる。太陽光による発電は、本店三号工場と本店二号蔵工場で消費する電力の5%程度をまかなう計算だ。

 

置き石基礎で固定した太陽光発電パネル。パネルにはトリナ・ソーラー・ジャパンの製品「Vertex S」を使用(写真:守山 久子)

 

 日本酒の製造過程に、蒸した米を冷やす工程がある。白鶴酒造の場合、冬期に醸造する工場では北側に設けた窓から六甲おろしを取り込んで冷やす。四季醸造する三号工場では空調設備を導入し、冷房を用いて冷やす。そのため建物自体も窓を極力小さくしたうえ外壁に一定の断熱材を施すなど、熱の出入りを防ぐつくりにしている。太陽光発電の導入は、時代ごとの要請に合わせて省エネ対応をしてきた工場施設の今日的な進化を反映したものとなった。

 

建築概要

 

所在地:神戸市東灘区

構造・階数:鉄筋コンクリート造・地上4階建て

設置場所面積:約1300m2

発注者:白鶴酒造

施工者:ダイセン

完成:2021年9月(太陽光発電システムの設置)

 

(日経クロステック「省エネNext」公開のウェブ記事から抜粋)


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