高断熱住宅は省エネ住宅か?これからの省エネ住宅(後編)
- 18/10/26
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ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やLCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅の実現には再生可能エネルギーの導入が不可欠だ。戸建て住宅で太陽光発電はどう活用すればいいのか。前編に続き、住宅の省CO2化に取り組むP.V.ソーラーハウス協会の南野一也氏と、気象条件が厳しい北海道でLCCM住宅認定を取得した棟晶の齊藤克也氏が、省エネ住宅を取り巻く現状と課題について対談した(対談は2018年7月26日に実施)。
住宅の省CO2化に取り組むP.V.ソーラーハウス協会会長の南野一也氏(右)と、札幌市で高性能住宅を手がける棟晶常務取締役の齊藤克也氏(写真:新津写真)
—— 前編は「高断熱と省CO2は異なる」という話で終わりました。
齊藤 克也氏(以下、齊藤) 北海道の住宅会社にはびこる断熱一辺倒の考え方には、私も疑問を感じています。実際、多くの住宅会社は建設時のCO2を軽視しがちですし、断熱を強化すれば太陽光発電は不要だと考える人もいる。
断熱で削減できるのは主に暖冷房のエネルギーで、それをゼロにするのは技術的には難しくありません。ただ、そこで満足して立ち止まってしまう住宅会社が多い。本当の課題は給湯や他のエネルギーの削減をどうするかなのですが。
南野 一也氏(以下、南野) 北海道は戦後、住宅の断熱性能の向上に取り組んできた歴史があります。北海道は高性能住宅のパイオニアで、日本の住宅の高性能化をリードしています。
その自負があるので、新しい要求に抵抗を感じるのは当たり前です。道内の住宅会社同士の連携も強く、技術力は高いので、今後は一気に変わる可能性も感じています。繰り返しになりますが、快適性と省CO2は別の話です。そこはしっかり整理してほしいですね。
齊藤 こういう話になりがちなので、当社はもうZEHを卒業し、申請を行なっていません。さらに先を見据えて、全棟LCCMを実現可能な体制を整えています。
当社では以前から家族4人が使うすべての電気代、家電の消費電力も燃費計算に組み込んできました。そこにプラスする太陽光発電は、蓄電を含めてその家で消費する。つまり「太陽光発電導入=蓄電池導入」です。先にも述べましたが、理想は電気を買わないこと。技術的には可能だと思いますが、実証実験も必要なのでいまだ格闘中といったところです。
—— 地球温暖化を防ぐための国際的な枠組み「パリ協定」で、日本は温室効果ガスを2013年度比で2030年までに26%削減すると表明しました。家庭部門(住宅)は約39%削減しなくてはなりません。
南野 棟晶はリーダー的な存在なのでZEH申請はぜひ行ってほしいのですが、自家消費に向かうのは正しい方向性だと思います。当面はZEH普及の形で市場が拡大するでしょう。ただ、ある住宅メーカーは大量のZEHを建設していますが、その会社の一昨年のZEH率は74%で昨年は76%です。あれだけPRしてがんばっていても年間2%増です。私は「4分の1の壁」が近づいているのだと見ています。
ZEHも太陽光発電も不要という層が4分の1はいます。こうした層を含めた住宅市場で、「2030年までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指す」と掲げた国の目標を達成するには、ゼロエネルギーだけではなくマイナスエネルギー、つまりLCCM住宅を普及させる必要があります。
パリ協定の約束目標を実現するには、既存住宅のZEH化が必須です。ある時期からは「既存住宅はZEH、新築はLCCM」という流れになるのではないでしょうか。
それと並行して、国の太陽光発電の固定価格買取制度(FIT)において、定められていた10年の買い取り期間が終了し始めます。スタート時点で48円/kWhだったのが11円/kWh程度になるのではないかと噂されています。今の買電価格は、昼間で東京電力は30円程度、北海道電力は40円程度。それを考えると、大方は棟晶が目指す自家消費に移行するのは間違いないでしょう。
こうした動きが2030年まで進み、その後はVPP(バーチャル・パワー・プラント)の時代を迎えるはずです。家で発電した電力を自家消費だけなく、地域でシェアしコントロールする時代の到来です。その制御技術が日本ではまだ不十分なのですが、一方、ドイツはVPP関連企業だけですでに500社以上あり、淘汰の時代を迎えています。日本の技術が確立された頃には、ドイツや海外のシステムが世界市場を席巻している可能性が高い。スピードアップが求められます。
—— 自分たちの立場では何をすべきでしょうか。
南野 私たちは住宅会社を育成する立場なので、そのための支援を行なっています。ZEH普及が当面の業界の命題であるなら、会員企業はZEHの普及率を少しでも上げ、できればZEHビルダーの5つ星を獲得し、自社ブランドとZEHをうまくリンクさせて、自分たちが優れた住宅供給者であることが市場で認知される体制を築く。そこを地道に目指していってほしいと思っています。
齊藤 私は太陽光発電自体は良いシステムだと思っています。北海道の暮らしはエネルギーを使うので、1Wでも発電量が多く、1円でも安いモジュールを使いたいという気持ちがあります。むしろ全棟導入したいくらいです。
しかし当社としては、CO2削減を太陽光発電だけでなくトータルで考える姿勢を示していきたい。太陽光発電は「ジョーカー」なので、確実に簡単に効果が得られますが、切り札は手札として残しておく。
今、私たちがいる建物は、当社の普及版高性能住宅で「腹八分目の高性能」ですが、太陽光発電パネルを載せるとLCCM住宅になるよう計算しています。そのための設備・配線計画も備えているので、あとは必要に応じてジョーカーを切るだけです。
2018年6月、札幌市豊平区に完成した棟晶の普及版高性能住宅「中の島プロジェクトA棟、B棟」。設計はSiZE(福岡市)。木造2階建て。延べ床面積は両棟ともに107.24m2。販売時は太陽光発電は未導入だが、屋根面に必要量を搭載すればLCCM住宅になるよう設計している。対談はA棟の2階で行った(写真:棟晶)
「中の島プロジェクトA棟、B棟」の南側外観(写真:棟晶)
4分の1は「太陽光発電は不要」
齊藤 先ほど南野さんが、最終的には「太陽光発電は不要」と考える層が4分の1はいると言っていましたが、実際、当社のような高性能住宅を求める顧客でも、太陽光発電に否定的な層は一定数います。まさに4分の1の壁を日々実感しています。
南野 当協会がZEHに取り組む住宅会社の育成とともに力を入れているのは、技術者を育てながら、工事の手間も減らし、太陽光発電システムをできるだけ低価格化することです。しかし、いくら低価格とはいえ太陽光発電を導入する住宅は、その分、月々の返済額が増えてしまう。
35年ローンの場合、太陽光発電の設備費用を1.3%で見ると、単純計算で月平均で約5000円高くなる。一方で売電+自家消費の発電収入は、東京なら毎月約2万円が期待できます。設置コストが150万円程度なら6年で回収できて、経済効果が続く。太陽光発電の推奨は、パリ協定や温室効果ガス削減など大きな話になりがちですが、顧客には理解の入り口として、単純に経済効果を伝えることがシンプルでわかりやすいと考えています。
—— 顧客対応の現場ではどうですか。
齊藤 当社は自家消費を勧めていますが、経済効果でメリットを伝える考え方は同じですね。ただ、札幌は土地が高騰しています。また、共働きが少ないために世帯収入は全国的に見ると多くありません。5000円が2万円になる投資効果は理解してもらえても、イニシャルの費用を用意できないケースが多い。
当社は若い世代の客層に強く、40年のローンが組めるので、月々の支払いは一般的な住宅ローンと比較して約1万円減になります。その分で太陽光発電を導入しましょうと提案しているのですが、実際はなかなか難しい。札幌の住まいの問題は冬季をどう考えるか。屋根に太陽光発電を搭載しても、積雪でモジュールが埋もれ、最もエネルギーが必要な冬にエネルギー供給が難しいと考える顧客が少なくありません。
南野 それは新築と同時に考えるから難しいだけで、入居後に「ソーラーローン」などを活用すれば済むと思います。利率は固定で2%程度です。18年ローン、2.5%で計算すると設置コスト150万円なら月々1万円程度。発電収入2万円の半分がローン支払いに充てられるイメージなら顧客は納得するのではないでしょうか。
ところで、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のデータによると、8kW程度の太陽光発電の場合、札幌では4~7月は月次900kWhの発電が生じますが、11月~1月は半分以下しか発電しません。 緯度が高いためです。一方、東京は本来発電量が多く望める夏至の時期は梅雨の影響で発電量が伸びず、日照時間が最も短い冬至の時は晴天率が高く意外と悪くありません。
緯度や気象の関係で地域によって月別の発電量が違うのです。札幌では雪の影響を危惧しがちですが、年間発電量が少ない時期に雪の影響を受けても大して問題はなく、夏の長雨のほうが影響は大きいかもしれません。設置場所の発電パターンを知り、きちんとユーザーに伝える必要があります。
梅雨のない札幌では、本州と比較して春先から初夏(3~6月)の日射量が冬季(11~2月)の日射量の少なさをカバーできるため、年間日射量は東京に比べて多い傾向にある。気温が低いため、太陽光発電の発電効率も上昇する(資料:新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のデータを基に札幌市が作成)
齊藤 ソーラーローンは使えると思いますが、逆ザヤを理解しても別のローンを組むことに抵抗がある人は多い。それが札幌の実情です。
屋根についても、札幌市内は無落雪屋根仕様が多く、屋根面の活用は限界があります。狭小住宅も増えていて、搭載量は8kWが限界です。実はこれが当社のLCCM住宅の実現のボトルネックにもなっているのです。札幌でLCCMなら10kWは必要ですからね。
そこで、屋根で足りない分は壁を活用しようとしています。月寒西モデルハウスでは、不足分を補うためにファサードにモジュールを張っています。太陽光発電の壁面活用に否定的な意見も聞きますが、実感としては予想以上の発電能力があることがわかりました。
南野 屋根の5寸勾配を前提に発電量を算出すると、札幌なら南側壁面で屋根面設置の76%程度の発電力です。北海道の冬は雪の照り返しがあるので、実際はもう少し高くなって80%を超えるでしょう。
齊藤 80%でもゼロよりはいい。壁面の活用は、ZEHからLCCMへと次のステップに進む上で不可欠です。本来なら太陽光発電パネルを外壁代わりに使いたいくらいです。対談を行っているこの住宅の外壁は道南スギ材で、下地には単体で防耐火構造認定を取得した窒素系ボード下地材を使っています。この下地なら、太陽光発電モジュール自体が防火認定をクリアしていなくても張ることができます。
いつかは外壁全面で発電する建材一体型太陽電池(BIPV)に挑戦しようと考えています。屋根にパネルを追加するのではなく、外壁を太陽光発電パネルに置き換えるのなら、外壁材が不要になりトータルコストも下がりますから。
南野 札幌市東区にある延べ床面積32坪の住宅で、屋根と壁面を合わせて11kWの太陽光発電(多結晶)を導入している例があります。これなら札幌でもLCCMは実現が可能です。蓄電池や電気自動車(EV)用コンセントは後から増設できますが、太陽光発電は設置できるようにしておく準備が必要ですからね。将来の設置を視野に入れた設計は不可欠でしょう。棟晶には北海道のLCCM住宅の推進役を期待しています。
(日経 xTECH「省エネNext」公開のウェブ記事を転載)
ZEHを実現するために極度に小さい窓しかない家が作られたりしていることで政府はZEHの基準を見直しました。自宅の電力をまかないながらも、デザイン性、快適さを犠牲にしない。トリナ・ソーラーは、透過性のある両面ガラスモジュールを住宅の建材としてお勧めしています。