「ZEHにしてほしい」と依頼されない これからの省エネ住宅(前編)

2018年度から国土交通省は、建物の省CO2化を支援する補助事業「サステナブル建築物等先導事業」にLCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅部門を創設した。ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは異なる概念だ。日本の省エネ住宅を取り巻く状況はめまぐるしく進んでいる。住宅の省CO2化に取り組むP.V.ソーラーハウス協会会長の南野一也氏と、札幌市で高性能住宅を手がける棟晶常務取締役の齊藤克也氏に、省エネ住宅の現状と課題について対談してもらった(対談は2018年7月26日に実施)。今回はその前編。

 

図1

南野 一也(みなみの かずや) P.V.ソーラーハウス協会会長
兵庫県洲本市出身。東海大学工学部光学工学科でソーラーハウス、法政大学文学部史学科で中国史を学び、住宅業界に身を置く。1997年に活動理念である「健康で快適な住環境」と「住宅の省CO2化」の普及を前提に、P.V.ソーラーハウス協会を設立(写真:新津写真)

 

図2

齊藤 克也(さいとう かつや) 棟晶常務取締役
札幌市生まれ。ゼネコン、ハウスメーカー、ビルダー勤務を経て、2009年から現職。リノベーション協議会北海道部会理事。2015年にリノベーション・オブ・ザ・イヤー「省エネリノベーション賞」、2016年「800万円未満部門最優秀賞」を受賞(写真:新津写真)

 

—— 最初にそれぞれの自己紹介をお願いします。 

南野 一也氏(以下、南野) P.V.ソーラーハウス協会は1997年にスタートした会員組織です。活動理念は明快で、「健康で快適な住環境の普及」と「住宅の省CO2化」です。住まい手が快適な生活を送りながら省CO2を可能とする住宅の普及を理念としています。会員は北海道から沖縄まで約300社。約8割は工務店で、そのほか、設備、建材、電材の会社などが会員です。 

齊藤 克也氏(以下、齊藤) 棟晶は、今期で9年目を迎える札幌市に拠点を置く工務店です。設備会社としてスタートし、その後、リフォーム業へと次第に事業転換し、現在は新築戸建て住宅、リノベーションなどを手がけています。人と同じものをつくっても意味がないと思い、近年は世界基準の高性能住宅を一般的な年収の方にも手の届く価格帯で実現することに注力しています。戸建て住宅を始めた頃は、ちょうどハイブリッド車が大ヒットした時代で、住宅版のトヨタ自動車「プリウス」を目標に、高性能住宅の開発に取り組んできました。 

 

—— 最近の省エネ住宅の動向について、それぞれの立場でお話しください。 

南野 住宅市場では、太陽光発電はZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に必要なパーツで、ZEHとはほぼ同義語になりつつあります。環境共創イニシアチブが2017年10月に公開した報告書によると、2016年度はNearly ZEHを含め約3万4000件のZEHが建てられました。同年度の新築注文戸建て住宅は約29万件ありますから、ZEH普及率は12%程度と推定できます。私見では、2018年度の普及率は15~20%だろうとみています。 

一方で、2018年度からZEHビルダーの5つ星表示制度も始まりました。現在は登録ビルダーの約5.7%が5つ星(2018年9月時点で398件)ですが、年内には6%になるでしょう。おそらくZEHへの動きは加速度的に進むと思われます。 

併せて、サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)でLCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅の補助事業もスタートしました。そのため、2018年は太陽光発電のマーケット拡大のアクセルが踏み込まれた年と考えることもできます。ここでアクセルを踏まないと、ZEHロードマップで示された目標「2020年までに新築注文戸建て住宅の過半数でZEHを実現」を達成するのは難しいと思います。マーケットは今後、前年比200%程度で推移するのではないでしょうか。

 

LCCM住宅に舵を切る

齊藤 当社は月寒西モデルハウスで、建築環境・省エネルギー機構(IBEC)による北海道初のLCCM住宅認定を受けました(2017年4月に完成したため、2018年度サステナブル建築物等先導事業の対象ではない)。 

ZEHの要件は満たしていますが、補助事業の申請は行っていません。なぜ、ZEHではなくLCCM住宅かというと、当社では太陽光発電を売電するのではなく、自家消費に移行して、電力会社からの買電をなくしたいと考えているからです。家で使う電力は家で発電する。そこにシフトするのが当社の目標です。ここ数年、さまざまなシステムを整備し、完成形も見えてきました。

LCCM住宅に舵を切らざるを得ない直近の理由の一つに、JPEA代行申請センターが行う太陽光発電の事業計画認定審査の大幅な遅れがあります。この認定がないと売電がスタートできないため、太陽光発電の普及のネックになっていると感じます。

当社で太陽光発電を搭載して2017年末に引き渡した住宅は、2018年7月時点で、まだ認定と接続契約を待っている状態です。問い合わせが殺到しているためか、JPEA代行申請センターには電話もつながりにくいです。投げたものが返ってこないと、怖くて顧客には勧められません。売電のためにそんなことに一喜一憂するよりは、蓄電池を搭載して自家消費するほうがスッキリしますからね。

 

図3

札幌市豊平区に建設した「月寒西モデルハウス」(2017年4月完成)。設計者は西方設計(秋田県能代市)、企画・施工者は棟晶。木造軸組み2階建て、延べ床面積は114.28m2。Q値:0.78、UA値:0.143。屋根とファサードに太陽光発電システム8.7kWを搭載(写真:新津写真)

 

—— 認定の遅れは困りますね。 

南野 太陽光発電は事業計画認定を受ける必要があり、JPEAはその審査を行なっています。2017年からスタートした新制度では、電力会社との接続契約が締結できていることが認定の要件となります。

ZEHの普及で太陽光発電のマーケットが拡大しているだけでなく、新制度への移行に伴い、JPEA代行申請センターへは旧制度で認定を取得していた産業用を含め、大量の申請や再申請が押し寄せています。処理作業の多さに加え、電話でも問い合わせが多数あり、その対応に時間を要しているのだと思います。でも、そうした背景はユーザーには関係ないですね。

齊藤 本気で普及を考えるなら、対応力の不足こそ問題です。一般ユーザーの立場で考えると、申請数が多いから対応が遅れるというのは言語道断です。契約後すぐに申請しているのに、ユーザーや住宅会社はひたすら認定を待ち、その間は売電できない太陽光発電パネルが屋根に載っているだけ。稼働する頃には新品のパネルが中古になってしまう。どこの住宅会社もユーザーからの苦情や次善策に苦労しているはずです。

もちろん住宅会社側にも問題はあります。「売電の利益があるので、○年で投資分を回収できる」というセールストークで太陽光発電を勧めていますから。住宅自体の性能は低いまま、太陽光発電を大量に導入して、一次エネルギー消費量の数値上だけで高性能住宅を成り立たせようとするケースも見受けられます。

そうした住宅は実際に住んでみると快適ではない。太陽光発電の力をうまく活用するためには、住宅の性能向上は必須です。断熱性能を上げて高効率設備を入れ、太陽光発電を6kW程度搭載して⾃家消費すれば、⼗分に良い家ができる。

これからは太陽光発電の導入メリットを売電だけで説明するのは難しくなります。当社は太陽光発電を「電力会社から買う電気をこれだけ減らすことができる」と顧客に勧めています。太陽光発電自体は良いものですから、その普及のためには売電だけでなく、別のPRの方法が求められていると思います。とはいえ、いくら自家消費を勧めても、そのメリットを理解するための情報が不足しています。

顧客から「外皮性能を高めてほしい」「もっと良い窓を」などの要望はほとんどありません。こちらが勧めなければZEHもLCCM住宅も実現しないのが現状です。技術力や設備機器はあるのに、それらを使って快適な暮らしを送る知識や情報の周知が、一般にはまだ不十分です。

南野 そもそもZEH自体が周知されていませんね。顧客から「ZEHにしてほしい」と依頼されることもまれです。そのため、顧客にZEHを提案できない住宅会社はどんどん遅れていってしまう。置き去りにされる住宅会社は増えるかもしれません。

日本の住宅の最終目標はZEHではなく、LCCM住宅だと考えています。LCCM住宅は、ざっくり説明するなら、ZEHに加えて4kW程度の太陽光発電を載せるイメージです。現状、家電・調理はZEHの一次エネルギー消費量の計算には入っていませんが、LCCM住宅はそれらのCO2排出量を含め、新築、改修、設備更新、解体まで、すべてに対してCO2をマイナスにすることが求められます。

高断熱をアピールする住宅会社は少なくありません。しかし、国が推進する省エネ住宅政策では、冷暖房エネルギーの削減は一部に過ぎず、もっと大きな視点で捉えることが必要です。断熱性能の向上は確かに大切ですが、断熱性能が高ければゼロエネルギーでなくても省エネ住宅と見る住宅会社が北海道では多い。

ZEHは家電を除いたトータルエネルギーをゼロにするという考え方です。たとえば札幌の暮らしでは年間消費エネルギー約105GJが普通ですから、家電の消費電⼒の約20GJを差し引いた約85GJをゼロにするのがZEHです。断熱性能を⾼め、⾼効率設備やLED(発光ダイオード)照明で省エネをがんばっても、おそらく45GJの削減が限界で、40GJほど残ってしまう。

齊藤 現実的には60GJ程度残るケースが多いかもしれませんね。太陽光発電は1kWで年間10GJ程度なので、60GJを相殺するならおおむね6kWの太陽光発電が必要になる計算です。

南野 いくら高断熱に腐心しても、生活に年間60GJ必要な家を省エネ住宅と呼んでいいのか。高断熱住宅は確かに快適です。私どもの協会の理念のひとつ「健康で快適な住環境の普及」は、高断熱住宅の普及を目指しますが、それは省CO2のための取り組みとは少し異なるものです。(後編に続く)

 

(日経 xTECH「省エネNext」公開のウェブ記事を転載)


 

ZEHを実現するために極度に小さい窓しかない家が作られたりしていることで政府はZEHの基準を見直しました。自宅の電力をまかないながらも、デザイン性、快適さを犠牲にしない。トリナ・ソーラーは、透過性のある両面ガラスモジュールを住宅の建材としてお勧めしています。

 

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