「スーパーカー」のZEBを汎用技術で改修 大成建設技術センターZEB実証棟「人と空間のラボ」(前編)
- 20/09/25
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大成建設は2020年2月、横浜市にある技術センター内の「ZEB実証棟」をリニューアルして「人と空間のラボ」と名付けた。新築時のガラス張りの外観はそのままに、設備や建物の外皮の性能を向上させ、BELS(建築物省エネルギー性能評価制度)のZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)評価を取得した。
「もともと、スーパーカーのように高度な手づくりの技術をてんこ盛りにした建物。改修に際しては、創エネ面でより高性能化を図る一方、省エネ面では汎用技術を導入した」(大成建設エネルギー本部の小林信郷ZEB・スマートコミュニティ部長)
地上3階建て、延べ面積1277m2の建物は14年5月に完成した。「都市型ZEB」を掲げ、屋上に加え、窓以外の外壁部分にも太陽光パネルを装備しているのが大きな特徴だ。完成後にはBELSの5つ星、米国のLEED(環境建築性能認証制度)における新築カテゴリーの最高ランク「プラチナ」の認証をいずれも国内で初めて取得した。
BELSの評価方法は16年4月に変わり、それ以前はZEB評価はなかった。当時の5つ星は、1次エネルギー消費量基準(BEI=設計1次エネルギー消費量÷基準1次エネルギー消費量)0.5以下が条件だった(16年4月にBEIの計算方法が変わり、事務所ビルの5つ星はBEI0.6以下になった)。
今回のリニューアルを機に、19年6月に改めてBELSを取り直して、創エネを含む1次エネルギー消費量削減率が100%以上のZEBの評価を受けた。
外観全景。屋上のほか、南東西を中心とする外壁に太陽光発電パネルを設置している(写真:大成建設)
改修ではまず、建物を特徴付ける外壁の太陽光発電パネルを一新した。カネカ(東京・港区)と共同開発した高効率のパネルに置き換えて、建物全体の発電量を約30%向上させた。太陽電池の配線を目立たなくさせるなどの工夫も施し、外観デザインをよりすっきりさせた。
さらに建物の外皮性能を高めた。外壁の断熱厚さを25mmから50mmに増やし、窓のLow-E複層ガラスは厚さ12mmの空気層を持つタイプから真空タイプに替えた。
南面の外壁まわり。窓以外の外壁に設置した太陽光発電パネルを、発電素子の最高発電効率24%、太陽光発電モジュールの平均発電効率18%の高効率な部材に一新した(写真:大成建設)
設備は、普及タイプの高効率ビル用マルチエアコンを新たに追加。従来用いていたLED(発光ダイオード)照明もさらに高効率なタイプに変更した。
人工知能(AI)、あらゆるモノがネットにつながるIoTを活用したサポートシステムも進化させた。改修前も空調や照明を利用者ごとに個別制御できる仕組みを導入していたが、利用者が好む温度や明るさをスマートフォンに入力しておくとそれに合わせて空調を制御する、個々の行動を分析して生産効率の上がる働き場所へと誘導するなど、よりきめ細やかなサポートができるようにした。
これらの改修により、再生可能エネルギー(創エネ)を含まない1次エネルギー消費量削減率(その他エネルギーを除く)で50%、創エネを含む同削減率で113%となった。
健康増進の視点も追加
国がZEBの定義を公表したのは、建物の完成から約1年半たった15年12月のことだ。新築時は、ZEBをつくり上げるための具体的な指針がないなか手探りで計画を進めていった。「まずは自分たちでZEBをつくってみようと考え、シンボリックな建築を計画した」と小林氏は当時を振り返る。省エネだけでなく利用者の快適性向上も大きな目的に据え、室内環境と知的生産性の向上を検証するための建物とした。
外壁の太陽光発電以外にも、建築と設備の両面で様々な工夫を施した。燃料電池の排熱を利用する吸着式冷凍機を導入し、天井のコンクリートスラブを活用した放射式冷暖房を採用した。2、3階の執務スペースの外には日射遮蔽の役割を担う屋外バルコニーを配し、窓面には日射を室内奥まで反射させる光ダクトを設けた。空調と照明はタスク(部分)とアンビエント(全体)に分けたうえセンサーを用いて個別制御できるようにした。
完成後の運用では、最初の1年間のエネルギー消費量463MJ/m2・年に対して創エネルギー量が493MJ/m2・年となり、建物単体での年間エネルギー収支ゼロを実現した。以降も5年間エネルギー収支ゼロを達成している。
ただし新築時に採用したこれらの技術は、現在、国の省エネルギー基準やBELSの評価に用いるエネルギー消費量の算定プログラムでは必ずしも評価対象に含まれない。汎用技術を用いた今回の改修は、現在の基準に即した評価を得る狙いもあった。
完成後1年間のエネルギーデータ。創エネルギー量が消費量を上回り、年間エネルギー収支ゼロとなった(資料:大成建設)
改修に際してもう1つ加わったのが、健康増進という視点だ。
19年5月、建物利用者の健康に関する米国の認証制度「WELL Building Standard(WELL認証)」で最高ランクの「プラチナ」を取得した。「新築/既存建築物全体」の認証区分では世界初となる。申請に向け、前述した改修工事に先駆けて、階段室の壁面に花を散らしたデザインを施した。利用者に階段の上り下りを促す仕掛けだ。そのほか、健康を増進するツールとして昇降デスクや自転車型トレーニングマシン、ハンモックを導入した。
さらに太陽光発電パネルなどの改修に合わせて、多様な働き方に対応できる台形デスクなどを用意し、屋外バルコニーにはウッドデッキを敷いた。もともとバルコニーに面した引き違い窓には網戸を設け、中間期には窓を開けられるようにしていたが、自然換気を活用できる計画は、図らずも新型コロナウイルス感染症対策に適したものとなった。
花のイメージを散らした階段室まわり。WELL認証を取得する際に視覚的な仕掛けとして追加した(写真:守山 久子)
リニューアル後の3階執務室。多様な使い方ができる台形デスクを導入し、木の棚などを設けた(写真:大成建設)
大成建設技術センターZEB実証棟「人と空間のラボ」
所在地:横浜市戸塚区
地域区分:6地域
建物用途:事務所等
構造・階数:鉄筋コンクリート造・地上3階建て
延べ面積:1277m2
発注・設計・施工者:大成建設
完成:2020年2月(改修)
(日経クロステック「省エネNext」公開のウェブ記事から抜粋)
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