多雨・多雪の福井で木造ZEB 熊谷組福井本店(前編)

 建設会社の熊谷組が、創業の地に立つ福井市内の自社ビルを建て替えた。年間降雨量の多い地域の市街地にあって、4階建てのNearly ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を実現させた。

 

 JR福井駅から徒歩7分という利便性の高い地域でありながら、住宅などの2、3階建て建物が多く並んでいる。2021年7月、そうしたエリアに完成した「熊谷組福井本店」は周囲の風景に違和感なく溶け込む。東側と南側の外壁に設けた庇とそで壁がファサード面を分割し、黒を基調とした建物に彫りの深い表情を与えている。

 

熊谷組福井本店の南東側外観(写真:熊谷組)

 

 

 創業120年を機に、熊谷組(東京・新宿)は1972年以降使っていた旧本店を建て替えた。4階建ての新本店は、1階に大会議室と一体化したエントランスホール、2階に打ち合わせスペースと同社の歴史をまとめた展示室などを配置。3、4階を熊谷組福井本店や同社の関連会社などの事務室として利用する。

 

1階のエントランスホールとその先に続く大会議室(写真:熊谷組)

 

2階の打ち合わせスペース(写真:熊谷組)

 

 「創業の地にふさわしい建物を実現するために、建築・構造、職場環境、地球環境という3つの観点から意欲的なテーマに取り組んだ」。同社建築事業本部建築技術統括部建築環境技術部部長の新井勘氏は、プロジェクトの背景をそう話す。

 

 建築・構造の面では鉄骨造と木造の混構造を採用し、耐火仕様の木材やCLT(直交集成板)を活用した。職場環境の面では、健康促進や災害時利用を念頭に置いたオフィスづくりを試みた。そして、地球環境の面で取り組んだのがZEBの実現だ。再生可能エネルギーを含めた1次エネルギー消費量の削減率が75%以上となるNearly ZEBの建物とした。

 

 熊谷組福井本店の立地は、ZEBには不利な条件が重なっていた。降水量が多い日本海側に位置し、太陽光発電が可能な期間が短い。敷地も面積565.51m2とけっして広くないため、建物の屋上に設置できる太陽光発電パネルの量は限られる。さらに敷地形状が南北に長く、空調負荷に影響を与えやすい東面に大きな開口を確保する必要が生じる。

 

ZEB導入システムの概念図(資料:熊谷組)

 

 こうした厳しい条件の下、建物の外皮まわりでは次の工夫を施した。

 

 グラスウールやウレタンフォームなどによる断熱とLow-E複層ガラスの採用によって外皮性能を強化。間口の小さい南面にはバルコニーを配して夏の強い日射が室内に入り込むのを防ぎつつ、奥行きの深い室内に太陽光を反射させて届かせるライトシェルフを取り付けた。

 

夏を主眼にしたパネルの傾斜角

 

 太陽光発電パネルは、気象の特性を踏まえて配置した。

 

 屋上には、積雪時対応と発電効率を考慮して、23.4kWの太陽光発電パネルを20度の傾斜角で設置した。年間を通してまんべんなく太陽光が得られる地域であれば傾斜角をもっと大きくするほうが発電効率は高まるが、福井市では積雪のため冬は多くの太陽光発電を期待できない。そこで、太陽高度が高い夏季に効率的な発電が可能となる傾斜角とした。

 

 屋上の太陽光発電パネルで足りない分は、壁面に設置した2.7kWのパネルで補う。南面のバルコニー上部に、室内への採光を妨げないように透過仕様の太陽光発電パネルを設置した。傾斜角70度で取り付けたパネルは両面発電タイプとし、パネルの下にあるライトシェルフからの反射で裏面の発電量を増やす効果を期待する。併せて11.2kWhの蓄電池も設け、停電時などに利用していく。

 

南面バルコニー上部に設置した太陽光発電パネルとライトシェルフ(写真:守山 久子)

 

 設備面では、熱源や空調のシステムを中心に多様な技術を組み合わせた。

 

 例えば3、4階の事務室には、床吹き出し放射空調を導入した。送風すると膨らむ「ソックダクト」を二重床内に設置。冷暖房した空気をダクトから二重床内に吹き出し、穴の空いた下地材とカーペットを通して室内側にしみ出させる。冷暖房の空気の動きをあまり感じさせずに、心地よく室温調整する仕組みだ。

 

 ダクトはループ状に配し、ダクトの吹き出し穴から室内中央側へ集中的に空気を吹き出すようにした。室内中央はデスクなどを配置する居住エリアとなるため、より空調効率が高まる。運転モードも「停止」「ウオーミングアップ&24時間換気」「冷房時(除湿と冷却)」「暖房時(加湿と加温)」など8パターンを用意し、室温や利用状況に応じて最適化した空調を目指す。

 

3階事務室。カーペットの色が薄い中央部分をソックダクトで集中的に冷暖房する(写真:熊谷組)

 

 

床吹き出し放射空調を採用した事務室の床。穴の空いた金属製下地板とカーペットを通して、冷暖房空気が緩やかに室内側にしみ出る(写真:守山 久子)

 

 

 空調機は、温度と湿度を分離して熱交換する潜熱顕熱分離方式を採用した。熱交換のコイルを直列に接続し、温度差の大きい冷温水を確保するなどして高効率化を図っている。換気については、執務スペースで回収した空気を全熱交換したうえで非居室の廊下へ流し、トイレなどから排気する「カスケード換気」を導入。空調空気を効率的に活用する。

 

 照明は事務室でのタスク&アンビエント方式を採用したほか、制御方式を細分化した。少人数の入室では全点灯しないようにした人感センサーと昼光センサーを組み合わせるなどし、人数に対応した制御を試みる。

 

 建物の省エネ性能に関する最終的な設計値は、外皮性能を示すBPI(PAL*の削減率)が0.63、BEI(1次エネルギー消費量基準)が0.17となった。ライトシェルフや潜熱顕熱分離空調、カスケード換気など、ZEBのエネルギー消費性能計算プログラム(非住宅版)の計算では評価されない技術も取り入れているため、実際の省エネ効果は9月の入居後に始める実測で検証していく。

 

 「予備実験を実施した床吹き出し放射空調をはじめ、照明など細かく制御できるシステムを導入して、快適性と省エネの両立を目指した。ただし、利用者が実際に快適と感じられるかは未知数。実測して効果を検証し、次の実践につなげていきたい」と新井部長は話す。

 

建築概要

熊谷組福井本店

 

所在地:福井市

地域区分:6地域

建物用途:事務所等

構造・階数:鉄骨造+木造(ハイブリッド構造)・地上4階建て

延べ面積:1190.85m2

発注・設計・施工者:熊谷組

完成:2021年7月

 

(日経クロステック「省エネNext」公開のウェブ記事から抜粋)


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