住宅会社がZEB改修に挑む エコワークス新本社(前編)
- 20/08/28
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住宅会社のエコワークス(福岡市)が、本社の移転先となる既存の賃貸ビルを改修。年間の1次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスになるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)とした。住宅づくりで蓄積した技術を生かし、テナントとして入居するビルの高性能化を図った。
大小の店舗や集合住宅が混在する福岡市の筑紫通りに面して、2階建ての鉄骨造ビルが建っている。一見ごく普通のこの建物が、福岡県で初めてBELS(建築物省エネルギー性能表示制度)におけるZEB評価を取得した。エコワークスが2020年2月から入居する新本社ビルだ。
筑紫通りに面したエコワークス新本社(写真:守山 久子)
ZEBは4段階あるZEBシリーズのうち最高ランクで、再生可能エネルギー(創エネ)を含まない1次エネルギー消費量削減率(その他エネルギーを除く)が50%以上、創エネを含めた同削減率が100%以上を条件とする。約45kWの太陽光発電を設置した新本社はそれぞれ57%と117%となり、余裕を持って条件をクリアした。
ZEBに関連する新本社の特徴はそれだけではない。まず、既存建築物を改修して実現したことだ。新築ではなく改修に伴い、創エネを含めた1次エネルギー消費量削減率が100%以上を実現したZEBは国内でまだ数例しかない。
さらに目を引くのは、入居テナントであるエコワークスがビルオーナーに提案し、エコワークスの費用でZEB化を進めた点だ。「高性能化によって建物の価値が高まることを訴え、オーナーの理解を得た。普通ならテナントの退去時に原状回復が求められるが、今回はそのままでよいという条件で改修工事を実施した」(エコワークスの小山貴史代表)
福岡県と熊本県を拠点とするエコワークスは、木造注文住宅を中心に年間約90棟を手掛ける。建設する住宅の省CO2化に早い時期から取り組み、20年度には全棟の9割をZEH(ネット・ゼロ・エネルギー住宅)とする目標を掲げている。自社の活動においても、モデルハウスを含む全17事業所で使用する電力の100%を再生可能エネルギー由来とするなど、全国でも先駆的な住宅会社といえる。
新本社ビルの建物は1987年に完成し、斎場として利用されていた。エコワークスは延べ面積およそ600m2の建物を改修して、1階に大小の会議室を、2階に執務スペースをそれぞれ設けた。
1階の多目的スペース。壁と床はムクの木材で仕上げた(写真:守山 久子)
2階の執務スペース(写真:守山 久子)
「住宅仕様」で高断熱化
ZEB化に際しては、外皮の高断熱化と設備の高効率化を図った。「計算上、住宅に比べて事務所ビルでは外皮性能の向上がエネルギー消費量の削減に与える効果は小さく、空調や照明といった設備の影響が大きい。そのため中心的な対策となったのは、日中の空調や照明のエネルギー消費量の削減だ。ただし快適な室内環境を得るために、住宅会社として当然備えるべきだと考える外皮性能も確保した」(小山代表)
建物の外皮は、同社が日ごろ手掛けるZEHを目安に断熱仕様を設定した。まず、ほぼ無断熱の状態だった既存建物に高性能グラスウールを追加した。断熱材の厚さは、2階の天井で180mm、外壁で105mm、1階の床で80mmとしている。
加えて内窓を追加した。既存建物の開口部に用いられていた単板ガラスの金属サッシは、断熱性能が低く熱の出入りが大きい。そこで、1階の多目的スペースを除くほとんどの部屋で、Low-E複層ガラスの樹脂サッシの内窓「インプラス(LIXIL)」を設置した。
断熱工事。外壁と天井上などに高性能グラスウールを充填(写真:エコワークス)
1階会議室の開口部。主な開口部に内窓を取り付け、既存窓と合わせて3重ガラスとした(写真:守山 久子)
設備面では、各室の空調機器に高効率の天井付けエアコンと壁付けのエアコンを導入した上で、照明を全てLEDにした。意識したのは「いかにコストパフォーマンスの良いZEBにたどり着けるか」(小山代表)。
当初案では、全て天井付けのパッケージエアコンを使い、全熱交換器を用いた第1種換気とする計画だったが、実際の使い方や地域の気候を考えて設備仕様をダウンサイジングした。小会議室や休憩コーナーなど一部の部屋では家庭用の壁付きエアコンとし、換気は熱交換をしない第3種換気に変更した。
屋根の上には45.225kWの太陽光発電パネルを設置した。自家消費を前提とし、余剰分は売電する。電力が足りない夜間などには電力会社から再生可能エネルギー由来の電力を購入する。
太陽光発電パネルは、防水層を痛めずに既存の折半屋根の一部に穴を開けて専用ボルトで固定。また既存の梁(はり)に対する構造計算を行い、増える荷重に対する安全性も確認している。
屋上のほぼ全面に約45kWの太陽光発電パネルを設置(写真:エコワークス)
太陽光発電パネルは既存の折板屋根に取り付けた(写真:エコワークス)
新本社の計画は、社員数が増えて旧本社が手狭になったのがきっかけだった。旧本社が入居していたビルのオーナーが所有する近隣の建物が空いていたので打診し、移転が決まった。
入居に伴う改修計画の最初からZEBを目指したわけではない。計画途中の19年夏に、「せっかくならZEBにしよう」と新たな目標を掲げた。改修工事費は約4900万円。国土交通省の既存建築物省エネ化推進事業の補助金を利用している。
ZEHには手慣れているエコワークスにとっても、ZEBは初めての取り組みだった。三菱電機住環境システムズに設備改修の設計を依頼。ZEBなどの申請や省エネ計画についてはイエタス(東京・千代田)のサポートを得た。イエタスの西山博マーケティング開発部長は、「今回は非住宅にもかかわらず断熱改修によって外皮性能が高くなっており、三菱電機住環境システムズも高機能の設備機器を提案していた。ZEB化に際して大きな苦労はなかった」と振り返る。
エコワークスは新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、新本社の入居後早々に1カ月の在宅勤務を実施した。BEMS(ビルエネルギー管理システム)も導入しているが、本格的な計測と運用調整はこれからの作業になる。
エコワークス新本社
所在地:福岡市博多区
地域区分:7地域
建物用途:事務所等
構造・階数:鉄骨造・地上2階建て
延べ面積: 603.24m2
発注者:エコワークス
設計者:三菱電機住環境システムズ、エコワークス
施工者:エコワークス
完成:2020年2月(改修)
(日経クロステック「省エネNext」公開のウェブ記事から抜粋)
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