新・メガソーラー活用塾①「在来種大豆」のブランド化で限界集落を活性化

JR渋谷駅に直結する商業施設「渋谷ヒカリエ」は、百貨店やミュージカル劇場のほか、時代の先端を行く商店が軒を連ねる。8階の「d47食堂」では、47都道府県のグルメ食材を使った地域色の強い定食を提供している。今年1月17日から2月15日まで、期間限定の特別メニューとして、「八天狗定食」を提供し人気を集めた。当初、1日30食を予定していたが、売り切れが続くなど好評のうちに終わった。

「八天狗」とは、熊本県山都町の水増(みずまさり)集落などで受け継がれてきた在来種大豆。種皮のうち、「へそ」の部分が黒いのが特徴で、深みのある独特の味わいがある。水増集落では、自家用として昔から栽培され、地元農家では食卓の定番になってきた。

この「幻の在来大豆」がその存在を大消費地にアピールしたきっかけは、2014年5月に水増集落で運転を始めた出力2MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)「水増ソーラーパーク」だ。水増集落は、阿蘇カルデラを形作る南外輪山にあり、豊かな自然に恵まれている。ただ、主体となる農林業の担い手が減り、高齢化と少子化が進んでいる。今や10世帯19人まで減り、平均年齢は約70歳。20年後の存続が危ぶまれる限界集落の1つだ。


図 水増集落の産業の活性化を支援する「水増ソーラーパーク」(日経BP)

「水増ソーラーパーク」は、同集落が共同で管理する入会地に建設された。20~30度の山腹の斜面、3.4haに約8000枚の結晶シリコン型太陽光パネルを土地なりに敷き詰めた。熊本県の新エネルギー開発のベンチャー企業が土地を賃借し、太陽光発電所を建設・事業化した。

水増集落では、メガソーラー完成に際し、「水増ソーラーパーク管理組合」を設立した。ベンチャー企業は土地の賃料として年間500万円を組合に払うとともに、売電収入の約5%(約500万円)を還元している。それは単にお金を寄付するのではなく、5%分の売電収入を原資とした「マーケティング包括協定」を管理組合と結んだ。

「マーケティング」とは、水増集落の産業を活性化することで、最終的に雇用や定住を促進するのが狙いだ。具体的には、同集落で営まれている無農薬・無肥料の自然栽培型農業や在来作物を発掘してブランド化し、都市から観光客を呼び込んだり、体験型農業学習を受け入れたりして、交流人口を増やしていくことをイメージしている。

メガソーラーを取り囲むエリアを観光農園として整備し、エネルギー生産と農畜産業が共存した新しい試みとしてアピールし始めた。都市に暮らす環境意識の高い人たちに対し、体験型農業学習の場として活用してもらうことを狙っている。「八天狗」を水増特産の大豆としてブランド化する、というアイデアもこうした視察がきっかけとなった。

今後、ベンチャー企業は、「八天狗」を筆頭に水増集落で有機農法による安全・安心な農産物を生産し、ブランド化していく計画だ。並行して、近隣の古民家を活用した「農村カフェ」を建設し、インフォメーションセンターや宿泊施設として営業する準備を進めている。(日経BP総研 クリーンテック研究所


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