夏暑くて冬寒いニッポンの家、まず勘違いを解け(2)
- 17/03/10
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全館空調の国よりも負荷が高い
「日本の住宅は全館暖房ではなく部屋ごとに機器を設ける『部分暖房』、かつ人が居る時だけ動作させる『間欠暖房』だから、全館暖房が一般的な欧米よりもエネルギーの使用量が少ない」という意見がちらほら聞かれます。確かに、既存住宅の平均的な値の比較では、そう言えたでしょう。しかし、現在の新築住宅においては全く当てはまりません。同条件で比較してみると以下の表のようになります。
室温を一定以上に保つために必要な単位面積当たりの暖房エネルギー量を暖房負荷といい、この値を算出・比較することで客観的な評価が可能になります。
暖房負荷は主に断熱性、気密性、日射取得量の3要素で決まります。建物自体の暖かさに対する素の性能を明らかにする値であり、暖房器具や太陽光発電の性能は関係ありません。 この表をみれば、日本の改正省エネ基準(2013年基準)はドイツのパッシブハウス基準やスイスのミネルギーP基準の6.3倍も暖房エネルギーを消費することが分かります。より高性能のトップランナー基準でも4倍もの差がついています。さらに日本で大半を占める部分間欠暖房でさえも、1.7~2.6倍のエネルギーを消費することが読み取れます。
室温を一定以上に保つために必要な単位面積当たりの暖房エネルギー量「暖房負荷値」を比較。小さいほど高い断熱性能を必要とする。ドイツやスイスの基準が厳しく、住宅の断熱性能が高いことが読み取れる (資料:各種の資料を基に松尾和也が作成)
つまり、ドイツやスイスの住宅で家全体を暖めるよりも、日本のトップランナー基準の住宅で人が居るときにその部屋だけ暖めるほうが、1.7倍以上の暖房エネルギーを消費するのです。これは、東京や大阪を含む「6地域」(旧IV地域)でのシミュレーションですが、寒冷地になればなるほど差は大きくなります。
表に掲載した日本の3つの基準は国が定めたもので、ドイツとスイスの基準は民間団体が提示している中で最高レベルの基準です。一見、民間最高レベルの基準と比較するのは酷なのではと思えますが、EUでは2020年を待たずして、ドイツのパッシブハウス基準レベルが全新築建築物において義務化されようとしています。
ドイツの住宅でよく使用される木製サッシの断面。ガラスを3重にすることで断熱性能を高めている。木製なので枠からの熱の出入りもアルミなどと比べて少ない(写真:松尾和也)
ドイツの住宅。全面に大きなガラスの窓を設けているものの、断熱性に配慮している(写真:松尾和也)
松尾 和也(まつお・かずや)
松尾設計室代表、パッシブハウスジャパン理事。1975年兵庫県生まれ、98年九州大学建築学科卒業(熱環境工学専攻)。日本建築家協会(JIA)登録建築家、一級建築士、APECアーキテクト(写真:日経ホームビルダー)
(日経ホームビルダーのウェブ記事を再構成)
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