高断熱化して快適な老人ホームに アミスタ五所川原(後編)
- 20/02/07
- トリナ・ソーラー・ジャパン ニュース,太陽光発電関連ニュース・市場動向
青森・津軽平野の五所川原に建つ住宅型有料老人ホーム「アミスタ五所川原」。1次エネルギー消費量の削減率が55%となり、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)シリーズの「ZEB Ready」に該当する。前編に続き、関係者にプロジェクトを解説してもらう。
——住宅型有料老人ホーム「アミスタ五所川原」はZEB Readyの建物です。これまで環境にどのような意識で取り組んできたのでしょうか。
島村 美由紀氏(拓心会理事長) 私たちが運営する施設では、以前から太陽光発電システムや木質ペレットボイラーなど、環境に配慮した設備を取り入れてきました。灯油代が高騰して事業費を圧迫するようになっていた10年ほど前、使用していたボイラーが故障したためペレットを導入したのがきっかけです。
今回も建設計画に当たって特徴ある施設にしたいと考えていましたが、ZEBに関する知識はほとんどありませんでした。そんなときペレットを納入している事業者からZEBの補助事業があるという話を聞き、環境配慮の一環で良い試みなのではないかと思いました。
なお、アミスタ五所川原では太陽光発電システムを新設していません。同じ敷地内にある既存施設に設けている太陽光発電システムの電力が余剰状態だったので、それを使えばいいと判断しました。
アミスタ五所川原の外観(写真:川村建匠)
——この地域はどのような気候の特徴があるのでしょうか。
三上 秀昭氏(秀建築設計事務所代表取締役) 設計上の積雪量が1.6mという多雪区域です。ただ、実際の積雪量は1m程度で、風が強く吹くと舞い飛んでいくのが特徴です。
山下 弘光氏(川村建匠常務取締役) 寒暖も激しいですね。平野部にありとても強い西風が吹く。冬季は外気温がマイナス10℃くらいになる一方で、夏には31℃くらいまで上がる日も多く、けっして涼しいわけではありません。
——ZEB化に当たって具体的にはどういう工夫を施したのでしょうか。
三上 木造建物では通常、厚さ100mm程度のグラスウール(16kg)を充填していますが、今回はより高い断熱性能を備えたウレタンフォームに変更しました。
窓に用いた樹脂サッシやLow-E複層ガラスは、これまでも標準的に使用しているものです。開口部の上には庇(ひさし)を設けていません。雪が多い五所川原市では、雪が積もる庇は設置しないのが一般的です。その分、夏の日射遮蔽の面では不利になりますが……。
諏訪 尚平氏(秀建築設計事務所設計チーフ) 開口は、採光や換気などの建築基準法に基づく大きさを設定しています。ZEB化に際して特に窓の大きさを変えるといった対応はしていません。
神 幸史氏(神建築設備設計事務所) ZEB化に伴う設備面の変更はいくつかあります。既存施設では熱交換型換気設備を使っていませんでしたが、今回は熱交換型を採用しました。パッケージエアコンとヒートポンプ給湯に対するデマンドコントロールの採用や照明の発光ダイオード(LED)化もランニングコストの削減に大きく寄与している要素です。
ほかにも、給水管の断熱材を通常の厚さ20mmから30mmの仕様に変えました。蛇口の水栓を節水タイプにする、ZEBの認定品を用いるといった対応もしています。
建物の断熱・気密性能が上がれば設備の容量を小さく設定でき、エネルギー消費の削減につながります。一方で、ZEB化に伴う建築面、設備面での措置はコストアップにつながるので、投資に見合った効果が本当に得られるのだろうかという点は設計中に気になりました。
「空気感が違う」
——入居後の状況はいかがですか。
島村 建物の基本的な使い方は既存の施設と同じですが、無駄なエネルギーの使い方をできるだけしないよう意識してきました。まだ厳密な検証はしていませんが、この拠点の施設全体で使う電気料金はアミスタ五所川原を建設した前後でほとんど変わっていません。2019年7月、既存の施設に設置している太陽光発電システムとつなげて余剰電力を使えるようにした効果もあると思います。
鳴海 孝寿氏(拓心会さかえホームヘルパー派遣センター管理者) 太陽光発電システムとつないだ後、11月末からBEMS(ビルエネルギー管理システム)による計測を再開しました。冬に最大デマンドが発生するのではと想定していますが、1年を通してデータを集めてから運用面での軽減策を検討することになります。
島村 廊下のエアコンは24時間稼働させており、夜は若干設定温度を落とすようにしています。職員の多くは、よほど吹雪の日でもない限り年間を通して半袖で働いています。あくまで個人的な感覚ですが、新しい建物では空気感が今までと違い、快適で働きやすい印象を受けています。
鳴海 遮音性も高いので、室内にいると外の音があまり聞こえません。
島村 高齢者が暮らす個室には個別のルームエアコンを設置して、入居者が自分でオンオフして使います。夏の冷房に使うことが多いようですね。高齢の入居者はストーブのように直接火が見えないエアコンを稼働させても「寒い」と訴えることが多いのですが、ここではそうした声は聞きません。
神 熱交換型換気でない場合は換気とともに外気が入ってくるため、室温の変動が大きくなりがちです。今回は断熱性を高めた上で熱交換型換気を採用しているので、室温の変動が少ない状況になっているといえます。
——今後もZEBに積極的に取り組む計画はありますか。
島村 施設を建設する際に良い補助制度にめぐり合えば、事業規模と費用対効果を勘案しながら前向きに検討したいと思います。
ただ、現在は高齢者事業に大きなニーズがあり人手不足の状態ですが、青森県では高齢者の人口ピークは25年ごろに来るといわれています。今後の需要を見極めながら新しい事業を検討していくことになるでしょう。
右から島村美由紀・拓心会理事長、山下弘光・川村建匠常務取締役、三上秀昭・秀建築設計事務所代表取締役、諏訪尚平・同設計チーフ、神幸史・神建築設備設計事務所(写真:守山久子)
(日経 xTECH「省エネNext」公開のウェブ記事を転載)
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