ZEB提案を受注獲得の武器に アサヒエンジニアリング社屋(後編)
- 19/12/06
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浜松市に拠点を置く総合建設会社の須山建設が設計・施工を手掛けたアサヒエンジニアリング(浜松市)の新社屋。創エネルギーを含めた1次エネルギー消費量削減率を144%まで高めたネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)だ。前編に続き、須山建設の安井孝浩氏と小野寺司氏、アサヒエンジニアリングの金原秀明氏と榑林宏紀氏にプロジェクトを解説してもらう。
——アサヒエンジニアリング社屋は、創エネルギーを含めた1次エネルギー消費量削減率が144%のZEBとなっています。ZEBを目指したきっかけは何でしょうか。
安井 孝浩氏(須山建設設計・調達ブロック設計グループグループリーダー) 建設会社である当社は意匠と設備の設計部門で、派遣社員を含め18人のスタッフがいます。以前からZEBにチャレンジしようとしてきましたが、実績がないために受注できず悔しい思いをしたこともありました。
まず実績をつくりたいと考えていたところ、グループ会社であるアサヒエンジニアリングの社屋建て替え計画が持ち上がりました。ぜひZEBに挑戦させてほしいと、アサヒエンジニアリングの金原社長に依頼して実現に結び付きました。補助金のスケジュールもあるため、無理をお願いして工程を少し遅らせています。
アサヒエンジニアリング社屋(写真:須山建設)
新社屋とその西側に並ぶ倉庫の屋根全面に合計59.78kWの太陽光発電パネルを設置した(写真:須山建設)
金原 秀明氏(アサヒエンジニアリング代表取締役) 私たちは土木工事を専門に手掛けています。年度末は忙しくなるのでできるだけ早い時期に引っ越したかったのですが、ZEB補助事業との兼ね合いから、ZEB関連工事は2018年8月に着手しました。最終的には同11月に完成し、同12月に引っ越すというスケジュールになりました。
——基本計画の当初からZEBを予定していたのですか。
安井 基本計画を練っている過程で「これなら、創エネルギーを含めた1次エネルギー消費量削減率100%を超える完全ZEBでいける」という話になり、必要なコストを計算してZEB化を提案しました。私たちにとってBELS(建築物省エネルギー性能表示制度)のZEB申請をするのは初めてでしたが、外部コンサルタントを入れずに自らZEBプランナーとなり、作業は全て自社で行いました。これまで外皮計算の方法などを社内でマニュアル化していたので問題なく進められました。
小野寺 司氏(須山建設設計・調達ブロック設計グループ課長) 静岡県では床面積2000m2以上の建築物を対象に「建築物環境配慮計画書」の提出を義務付けた「CASBEE静岡」の制度があります。そのためCASBEEをはじめとする省エネ関連の計算は以前から社内で行ってきました。
当初は、省エネ計算は設備設計の担当者が手掛けていました。ところが省エネに関する業務が増えて、手が回らなくなってきました。そこで、意匠の担当者や派遣のCADオペレーターでも計算できるようになる社内マニュアルを作成したのです。現在は、意匠担当者が外皮計算を、設備担当者が設備関係をというように分業しており、作業時間の短縮にもつなげています。
——建物を実際に使ってみての効果はいかがでしょう。
金原 安定した温熱環境を得られている点に、断熱性の高さを実感します。倉庫を改造して使っていた旧社屋では、近くにある航空自衛隊基地の飛行機の音がかなり気になっていましたが、それも感じません。社屋が新しくなり、従業員の採用時にも入社希望者が集まるようになりました。
榑林 宏紀氏(アサヒエンジニアリング総務部) 夏はエアコンの設定温度を27℃から28℃と高めにしていますが、暑いとは感じません。冬は日射を得られない日にエアコンをつける程度で済んでいます。私たちは現場や倉庫での作業も多く、寒さに強い従業員が多いという面もあるかもしれませんね(笑)。
補助金がなくなったらどうする?
——その後は顧客にZEBを提案していますか。
安井 自社ビルを建てる顧客にはほぼ提案しています。ZEBは省エネの「モノサシ」が分かりやすいことに加えて、補助金を得られるのがメリットです。イニシャルコストが高くなっても補助金である程度は賄えます。性能が高まる一方で、ランニングコストが下がるという点は魅力的といえます。
ただ、申し込んだ補助金が実際にもらえるかどうかは提案時には分かりません。契約では、補助事業に採択された場合は太陽光発電設備をどの程度設置し、採択されなかった場合はどの程度に抑えるか、という形にして、顧客にも納得してもらっています。
金原 太陽光発電することでランニングコストがどれだけ下がるかを想定した提案はありがたい。同時に、補助金を得られるかどうかは事業性を考えるうえで非常に重要なポイントになります。
小野寺 設計側としては、補助金を申し込む場合には採択時の加点要素に力を入れた計画とし、採択される確率を高めるようにしています。
——補助金がなくなったらZEBは提案しにくくなりますか。
安井 省エネやBCP(事業継続計画)は、建て主の企業にとってはもともと関心のある分野です。当社はZEBの制度がない時期からそうした提案に力を入れてきました。今後も、ZEBという言葉を使うかどうかは別として積極的にチャレンジしていきます。
金原 製造業の場合、一定規模以上の企業は環境目標を持っています。事業所や工場を建てる際には省エネやZEBの提案が評価のポイントになり、設計・施工者がその実績を問われる可能性は出てきます。
——いずれにせよ、ZEBは提案ツールとして武器になるということですね。
安井 私たちは以前から省エネに関するシミュレーションを自ら手掛けてきました。外皮の断熱性能の面では、「この部位の断熱を厚くすればこの程度性能がアップする」「このコストならこのくらいの性能にできる」といった勘所がつかめています。加えて、採光の工夫や、空調や照明など設備機器の最新動向をチェックしていくことが大切になるでしょう。
重要なのは、いかにZEBのメリットを上手に説明できるか。その点、アサヒエンジニアリング社屋を手掛けられたことで、年間のエネルギー消費量を実測できるようになりました。設計時のシミュレーションと運用時のデータの違いも把握でき、ZEBの価値をより伝えやすくなっています。これはありがたいことです。
左からアサヒエンジニアリングの榑林宏紀氏(総務部)、金原秀明代表取締役、須山建設設計・調達ブロック設計グループの安井孝浩グループリーダー、小野寺司課長(写真:守山 久子)
(日経 xTECH「省エネNext」公開のウェブ記事を転載)
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