ザクッとわかるZEB(1)ビルの省エネはまだ不十分

2017年4月から、延べ面積2000m2以上の新築の非住宅建築物に対し、省エネ基準の適合義務化がスタートする。ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)は、省エネ基準を上回る高性能な建築物の一つ。ZEBは未来の建築技術ではなく、すでに国内でも多くの実例が完成している。まずは、その背景を探ってみよう。

ZEBとは、快適な室内環境を保ちながら、負荷制御、自然エネルギー利用、高効率設備で建物内のエネルギー消費を最小化した上で、再生可能エネルギーを創出して正味100%以上の省エネを実現した建築物。省エネや創エネの技術を集大成したビルといっていい。

ZEBと省エネ基準などとの関係は下図の通りだ。


ZEBと他指標との比較。省エネ基準よりも50%以上省エネを達成したものを「ZEB Ready」、その上で太陽光発電などによってエネルギーをつくり、正味で75%以上省エネを達成したものを「Nearly ZEB」、正味で100%以上省エネを達成したものを「ZEB」と定義する(資料:環境共創イニシアチブ「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス支援事業 調査発表会2016」)
 

ZEBが求められる背景を、地球規模の視点から見てみる。2013~14年に「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が公表したIPCC第5次評価報告書の政策決定者向け要約には、建築部門は10年に世界の最終エネルギー消費の約32%を占め、8.8GtのCO2を排出。温暖化対策が採られない場合、今世紀半ばまでにエネルギー需要がほぼ倍増するとの予測を示した。

世界で地球温暖化対策の取り組みは増えてきたが、残念ながら温室効果ガスの年間排出量は増加傾向にある。

この報告書には、同規模のビルで3~5倍のエネルギー使用量の差が見られるとある。また、先進国ではライフスタイルの見直しで、今世紀半ばにエネルギー需要を現状の50%まで削減可能としている。

建築部門はまだ省エネや温室効果ガスの削減の余地がある。そのため各国ともZEBを目指し、建築の省エネ化に力を注いでいる。

視点を国内に戻すと、日本ではオイルショック時と比較し、16年の実質国内総生産(GDP)は約2.5倍に増加したが、省エネ対策が奏功し、エネルギー消費の増加は約1.3倍に抑えられている。ただし、民生部門(業務その他部門および家庭部門)のエネルギー消費量は増加傾向にあり、同部門の省エネ化は、日本の環境対策の重要課題となっている。そこで、政府は規制とインセンティブを総動員し、住宅やビルの省エネ化に取り組んでいる。


業務その他部門の業種別エネルギー消費の推移。事務所・ビル、卸・小売業のシェアの増加が目立つ。なお、「総合エネルギー統計」では1990年度以降、数値の算出方法が変更されている(資料:資源エネルギー庁「平成27年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2016)」)
 

COP21に先立って、日本が提出した「日本の約束草案」では、民生部門において、温室効果ガスを13年度比で約40%大幅削減する目標を定めている。


「日本の約束草案」では、業務その他部門で温室効果ガスを40%削減する(資料:環境省地球環境局「地球温暖化対策について(2015年10月)」) こうした課題の抜本的対策として、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)とともに注目されているのが、冒頭で説明したZEBである。14年に閣議決定した「エネルギー基本計画」では、20年までに新築の公共建築物などで、30年までに新築の建築物の平均でZEBを実現する目標を設定した。
 

日本では東日本大震災後、建築・都市のエネルギー自立の必要性が認識されたことも、ZEBに注目が集まる契機となった。

ZEBの定義は、建物の実態に応じてZEBを目指すことができるよう、ZEB Ready(50%以上省エネ)、Nearly ZEB(75%以上省エネ)を含め、現実に即して拡張されている。


ZEBの定義のイメージ。省エネ基準よりも50%以上省エネを達成したものを「ZEB Ready」、その上で太陽光発電などによってエネルギーをつくり、正味で75%以上省エネを達成したものを「Nearly ZEB」、正味で100%以上省エネを達成したものを「ZEB」と定義する(資料:環境共創イニシアチブ「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス支援事業 調査発表会2016」)
 

(日経アーキテクチュア「省エネNext」の2017年3月6日公開のウェブ記事を転載)


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